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のれん分け、したことないけどね — 令和の「暖簾の継ぎ方」

のれん分け、したことないけどね — 令和の「暖簾の継ぎ方」

連載も、いよいよ最終回です。最後のテーマは「のれん分け」。

……なんですが、正直に白状します。私、のれん分けの経験がありません。

スタッフは独立していきました。募集をかけても、人は集まりませんでした。だから、弟子を一人前に育てて自分の看板を分けてやる、なんて立派なことは、一度もしたことがない(笑)。偉そうに語れる立場じゃないんです。

でも、だからこそ見えることもあります。今日は「のれん分けできなかった側」から、令和の暖簾の継ぎ方について書きます。

そもそも、今どき「のれん分け」って成立するの?

昔の美容業界には、美しい連鎖がありました。弟子入りして、下積みをして、技術と信頼を身につけて、いつか親方から「のれん分け」で独立させてもらう。店の名前を分けてもらい、暖簾を継いでいく。技術が人から人へ、世代を超えて手渡されていく文化です。

でも、令和の今。正直に考えてみると、店名を継ぐ意味って、昔ほど強くないですよね。SNSで個人が発信できる時代に、あえて親方の看板を背負う理由は薄い。それに、のれん分けって、どちらかというと円満じゃないときにこそ形式が要るものだったりもする。喧嘩別れするなら「のれん分け」という区切りが必要だけど、今は独立するにしても「まあ、仲良くやろうぜ」で送り出す時代です(笑)。

師弟関係そのものが、昔とは違うものになっている。そこを抜きに、のれん分けだけを語っても仕方ない気がするんです。

先輩のほうが、気を遣う時代

ここは、少し本音で書かせてください。同世代のオーナーさんには、頷いてもらえる話だと思います。

今って、先輩後輩の関係が、昔と逆転しているところがあります。先輩のほうが、後輩に気を遣う。初任給だって、先輩の給料はなかなか上がらないのに、後輩の初任給はどんどん高くなって、気づけばたいして変わらない、なんて話も聞きます。

そして、ちょっと強めに何か言えば「パワハラ」「老害」。……いやいや、と思うわけです。下から「言うぞ」って圧をかけてくるほうが、よっぽどパワハラじゃないか、と(笑)。

でも——たぶん、いつか分かる日が来るんですよね。
自分が独立したり、自分が誰かの先輩になったとき。「ああ、あのとき叱ってくれたのは、俺のことを思って言ってくれてたのかな」って。

だから、今の若い子たちが、何でもかんでも「パワハラだ」「老害だ」で片付けてしまうのは、長い目で見たら、自分のためにならないんじゃないかな、とは思います。……と、これ以上言うと、私が老害認定されそうなので、このへんにしておきます(笑)。

でも、若者が変わったのは、悪いことばかりじゃない

ここで、以前どこかで聞いて、なるほどと思った話を紹介させてください。ある経済学者が、こんなことを言っていました。

日本の若者の人口はどんどん減っているのに、世界で活躍するスポーツ選手はむしろ増えている。なぜか。いろんな競技の選手に聞いて回ったら、みんな同じ答えだったそうです。

「子供の数が減って、根性で押せなくなったから」。
昔は子供が無尽蔵にいたから、理由も説明せず「とにかくウサギ跳びをやれ」でよかった。それでも人はついてきた。でも今は、意味の分からない練習には若者がついてこない。すぐ辞める。だから指導者が本気で頭を使って、トレーニングを合理化・科学化するしかなくなった。——その結果が、今の日本のアスリートの躍進なんだ、と。

これ、すごく示唆的だと思うんです。若者が我慢しなくなったからこそ、教える側が「体系化」を迫られた。根性論が通用しなくなったことが、かえって強さを生んだ。

美容業界も、まったく同じ構造の中にいます。人は採れない、下積みは嫌われる、すぐ辞める。嘆きたくもなります。でも見方を変えれば——「気合で覚えろ」が効かない時代は、「どうすれば上手くいくか」をちゃんと仕組みにして残すしかない時代でもある。それは、決して悪いことじゃない。

だから、令和ののれん分けは「仕組みを継ぐ」ことなのかもしれない

ここまで考えて、私はこう思うようになりました。

昔ののれん分けは、技術や根性を、親方から弟子へ「口伝」で渡すものでした。でも、それが難しくなった今。渡せるものは、別の形になっているんじゃないか。

たとえば、あなたが今働いているお店で、「このお店の仕組みのおかげで自分は成長できた」と思えるなら。独立するときに、その仕組みごと持っていくという手があってもいい。予約の回し方、顧客の守り方、お金の管理の仕方。険しい独立の道を、たった一人でゼロから歩まなくても、お世話になった人の仕組みを使わせてもらいながら、一緒に成長していく。

暖簾じゃなくて、仕組みを継ぐ。それが、令和ののれん分けの一つの形なんじゃないかと思うんです。

ANEXISの場合
実はANEXISには、「独立するときだけ、店舗を分割できる」という構想があります。……正直に言うと、まだ作ってないんですけどね(笑)。普段はセキュリティ上、お店のデータを勝手に抜き出すことはできないようにしてあります。でも、スタッフさんが独立して自分の店を持つ——そのときだけは、育ったお店の仕組みを持って旅立てる。そんな仕組みを、いつか形にしたいと思っています。のれん分けができなかった私なりの、暖簾の渡し方として。詳しくはANEXIS SalonOSのご案内をご覧ください。

おわりに — と、その前に

この連載では、8回にわたって「一人で生き抜く技術」を書いてきました。予約のすき間の埋め方、顧客情報の守り方、AIとの付き合い方、記帳の楽のしかた、安売りしない経営、一人サロンという選択、そして今日ののれん分け。

最後まで書いてみて、思ったことがあります。本当は、全部を一人で抱え込まなくてもいいのかもしれない。誰かの仕組みに乗せてもらったり、自分の仕組みを誰かに渡したり。離れても、繋がりながらやっていく道がある。のれん分けは死んだわけじゃなくて、形を変えただけ。次の世代の美容師さんたちと、そんなふうに繋がっていけたらいいな、と思っています。

——と、いい感じにまとまったところで。この「経営ノート」の連載は、ひとまずここで一区切りです。

でも、ブログ自体はこれからも続けます(笑)。むしろここからが本番かもしれません。次は、経営の小難しい話はちょっと置いといて、もっと肩の力を抜いた話をしようかなと思っています。うちの店で、お客さんとしているような雑談です。

たとえば——実は私、けっこう人見知りなんです。美容師なのに(笑)。お客さんの名前も、正直あんまり覚えられない。テレビも見ないし、SNSを眺める時間もない。そんな私が、なんで田舎で30年もやってこられたのか。我ながら不思議なので、そのへんの「しょうもない本音」を、ぼちぼち書いていこうと思います。

長い連載に、お付き合いいただきありがとうございました。次回からも、気軽に覗きに来てください。店に来る感覚で、どうぞ。

— 「美容室経営ノート」連載・完 / ブログはこのあとも続きます —

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